2017/02/04

-吸血鬼には向いている職業-  黒田さんはやっぱり黒田さん



ご存じ 榎田尤利さんの”マンガ家シリーズ”から こちらの作品をご紹介します。

マンガ家×編集者とか 作家×編集者は定番の設定ではありますが 更に”吸血鬼”までプラスされる大サービス。

面白くないわけがありません。

しかも 主演の黒田崇矢さんは役名も”クロダ”。これは…狙ったのでしょうか?

いかにも黒田さんらしい男前な面と 普段はなかなか聞けないコミカルな黒田さんの 両方が味わえてさらにお得!

愉快で ジワっとくる作品です。



(Kyuuketsuki niwa muiteru shokugyou)


原作:榎田尤利(Yuuri Eda)
イラスト:佐々木久美子

発売元:リブレ出版 キューエッグレーベル/2010年
CAST:黒田崇矢(黒田瑞祥)×平川大輔(野迫川藍)/武内健(ケイト)/てらそままさき(薔薇原)





■■■■■about story


巷では噛み付き魔の事件がニュースになっている頃。。。

”ジージンタ”編集部では 人気マンガ”ゴスロリ吸血少女Ψちゅるちゅる”(略してゴスちゅる)の新しい担当をジャンケンで決めることに… 運がいいのか悪いのかジャンケンに負けたのは野迫川藍(のせがわ あい)。

作品は大人気でも”気まぐれ ワガママ セクハラ疑惑で 性格悪い 締め切りを守ったことがない”と編集者から敬遠される作者の黒田瑞祥(くろだずいしょう)なのですが野迫川は気にする様子もありません。

それというのも野迫川は大のマンガ好きの上に筋金入りの”ゴスちゅる”ファン。いつかは担当になりたいと密かに思っていたのです。

新しい担当も いつものように適当にあしい さっさと血を頂こうと迫る瑞祥でしたが 野迫川が首にかけるロザリオに阻まれます。

そこで ”原稿のためならなんでもします”と宣言する野迫川に瑞祥は条件を付けます。”三日で1000冊売ってこい。チュルの衣装を着てだ” と。

できっこないと高を括っていた瑞祥に 1000冊売り切った野迫川は 締め切りを守ることを約束させ
ネームに目を通すことに成功します。

そんな中 以前から体調の悪かった野迫川の祖母が亡くなります。唯一の肉親を亡くした野迫川は喪失感から立ち直ることができず仕事を休んでいました。

そこへ心配した瑞祥が突然弔問に訪れます。

虚ろだった野迫川は 瑞祥の言葉で自分の心と向き合い涙を流します。やっと 孤独を受け入れることができたのです。

数日後 野迫川は”ゴスちゅる”のイベントに”ちゅる”のコスプレで参加します。大盛況に終わった帰り道 例の噛み付き魔に襲われてしまいます。

まさに噛み付かれようとしたその時 瑞祥が現れ 噛み付き魔は逆に血を吸われてしまいます。
それは 野迫川に自分は本当に吸血鬼なのだと見せつけるためでした。

二度と野迫川と会えないと覚悟していた瑞祥の前に 翌日 野迫川は普段のように現れます。
”昨夜のことは忘れたくない。先生が消えてしまわないか心配した…チュルの原稿が落ちてしまわないかと心配だった” と。

正体を明らかにした瑞祥は野迫川に”いい原稿を描くために献血をしろ”と持ち掛けます。人の血が一番甘くなる セックスをしている状態での”献血”を野迫川は承諾するのですが…。

新春号の目玉に”ゴスちゅる”と”バンパイアハンター融”の作者 薔薇原(ばらはら)との2大バンパイア作家夢の対談 の企画が持ち上がります。

”バンパイアハンター融”を読んだ瑞祥は あまりにバンパイア・吸血鬼に詳しいその内容に作者の薔薇原はダムピールではないかと疑いを持ちます。

対談は散々な結果となりましたが瑞祥は薔薇原がダムピールである確証を得ます。

更に薔薇原が野迫川に対して良からぬ気持ちをもっていることにも気づきます。”奴には近づくな”と瑞祥は忠告するのですが 仕事の都合もあり 野迫川が意に介することはありません。

対談記事のゲラをチェックしてもらうために薔薇原の自宅を訪れた野迫川は飲み物の中に薬を入れられ体の自由を奪われます。その耳元に瑞祥を滅せよと呪文を流し込まれナイフを渡されます。

そこへ窓から瑞祥が飛び込んできます。

薔薇原に渡されたナイフを握りしめた野迫川は 自分の意志に反して一歩一歩瑞祥に近づいていきます。

それに気づいた瑞祥は野迫川に滅せられることをうけいれます。

一方野迫川はこのままでは瑞祥を刺してしまう 瑞祥が灰になってしまう と苦しみます。
そして 思い通りにならない体で渾身の力を込めて自分の腿を刺すのです。

傷ついた野迫川を見て瑞祥の怒りは頂点に達し 薔薇原を殺そうとするのですが 野迫川の”殺してはダメ…”という言葉で寸でのところで思いとどまります。。。。


■■■■◆about SE

この作品は原作が小説なので説明調のセリフなども入っていて CDだけを聞いていても ”あれ?”っていうシーンは少ないのですが。。。

本当に本当に残念なことに一か所だけ どうしても状況がわかりにくいところがあります。

なんと それはクライマックスシーン(泣)

薔薇原に捕まった野迫川を瑞祥が助けに来るシーン。

瑞祥は外から窓を破って室内に飛び込んできます。窓ガラスが粉々に砕け散り 風が吹き込んで来るのでそこら中ガラス片だらけになります。
原作では薔薇原の頬にガラスが当たり血を流しますが野迫川は傷一つありません。ここには瑞祥の意志が感じられます。
この後 薔薇原に操られた野迫川は瑞祥にナイフを突き立てる瞬間 辛うじて自分の腿に切っ先を変えたことで体の自由と意志をとりもどします。傷ついた野迫川を抱いて激高する瑞祥が薔薇原に攻撃をします。

ここなんですよぉ。。。

瑞祥が飛び込んできたときに床に散らばったガラス片が一斉に薔薇原に向かって飛んで行くんです。
避けようと体を縮めた薔薇原の背後の壁にそれらがグサグサと突き刺さっていきます。
最後に一つだけ 矢じりのように尖ったガラスが薔薇原の目の前で宙に浮いていて それがジリジリと近づいていく。
急に動いたガラス片は眼球数センチのところで止まり 恐怖に慄く薔薇原に 野迫川には二度と手を出さないと約束をさせるのです。

このシーン SEはついているんですが さすがにこの状況は想像できないです。

しかも結構セリフもカットされてて… 薔薇原のゲスなセリフだとかやらしいオイタをしかけたところとか ホントこいつクズ!!って思わせるようなところがバッサリです。
まあ だからこそ薔薇原は憎めないおまぬけキャラに設定されているんでしょうけど。
さらには 瑞祥のカッコイイセリフも結構カットされています。

個人的にはかなり残念です。他が良かっただけにねぇ。。。

以前に”CD聴いてから読む”をお勧めしましたが この作品に関しては というか このシーンだけは”読んでから聴く”又は”読みながら聴く”を強くお勧めします。


■■■◆◆about impressions


真面目でマンガ大好きオタク気質の美形編集者を平川大輔さん。永遠の時を持て余し自身を投影した作品を描くマンガ家を黒田崇矢さんが演じます。

マンガに対して誠実で生真面目な若者は平川さんにピッタリ。
物語冒頭の原稿だけが正義!というような堅物新人編集者野迫川ですが 物語が進むにつれ オタクで少し寂しい青年の顔が見え隠れしてきます。大ファンであるマンガ”ゴスちゅる”の主人公’ちゅる’は彼にとって寂しさや哀しさを共有できる親友です。その存在はマンガ以上のものなんだな こんなに思われている’ちゅる’は幸せだな とも思えてきます。

一方の人生(?)に倦んでしまった大物吸血鬼の哀しさ 寂しさは黒田さんの声の端々に滲んでいます。ネームを読んだ野迫川と意見が対立するシーンがありますが 友達の幸せを願う野迫川を否定する瑞祥は そこに自分の人生(吸血鬼)観を込めているから簡単には同意できなかったのでしょう。でも だからこそ瑞祥は気付いてしまったのです。寂しさを感じないわけを。。。
それが 自分を振り返ることになり素直に気持ちを受け入れることができた理由じゃないでしょうか。
こういうプライドの高いタイプはなかなか自分の気持を受け入れることなんてできないですからね。ましてや かなりの長い人生(?)を歩んできていると いろんな感情に縛られて真っすぐな感情は見ないふりをしてしまうことが得意になったりするものですものね。

つまり テーマは”孤独”

愛を失うことで生まれる孤独。時間の中に取り残された孤独。
”孤独を腕に抱えて生きていくしかない”という瑞祥の言葉。さすが何百年も生きているだけあって深いですね。
孤独は自分自身のものであって 認めなければ前に進めない。
野迫川の孤独は愛を得ることによって癒されるのでしょうが 瑞祥の抱える孤独はどうやって癒すのでしょうか。野迫川と愛を育んだとしても時間の流れは変えようがないですよね。

でもね 二人は最強のアイテムを手に入れました。

薔薇原に渡された銀のナイフ。

吸血鬼を愛するものだけが使えるナイフ。吸血鬼を滅することができる。時を止めることができる。

結局はすべての孤独は愛が救う ということですか。愛を得ることができる人はいいですよね 愛が得られない人はどうしたらいいの?
ぁ そうでした。しっかりとその腕に孤独を抱えて生きていくのですね。肝に銘じます。

さて 原作は 榎田尤利 さん。言わずと知れた人気の作家さんです。
この作品でも 初っ端から担当編集をジャンケンで決めるなんて笑わせてもらえます。そんな会社があったらヤバイでしょ。
こんな風に榎田さんの作品はコミカルでテンポが良くてじわっと来るものが多いです。Hシーンはそれほど濃厚ではないのでHシーン苦手な方でも大丈夫。
作品数もかなりな数でシリーズものもいくつもあります。お気に入りの作品がきっと見つかります。
活字離れと言われている昨今ですが 読みやすさは太鼓判を押します。ぜひとも原作を読んでみて欲しいです。

また 他の機会に違う作品をご紹介します。楽しみです。





























































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